Sports Co-Creation

第9回全日本知的障がい児・者サッカー競技会
「にっこにこフェスタ」

第9回全日本知的障がい児・者サッカー競技会『にっこにこフェスタ』が、10月16日、秋晴れの江戸川区陸上競技場で行われた。 日常的にスポーツをする機会の少ない知的障がい児・者やその家族がスポーツを通して交流し、地域社会への理解を促進することを目的とした大会で、今年は、選手、ボランティアとも参加人数は過去最高となり、地元の中学生や企業など、実に300名以上のボランティアが、運営スタッフとして活躍しました。

多くのボランティアが支えた知的障がい児・者サッカー大会

知的障がいや発達障がいのある人の自立や社会参加を目的とし、特定非営利活動法人トラッソスの吉澤昌好さんが中心になって、2008年に第1回大会が行われたにっこにこフェスタ。「このイベントは、チームでも個人でも、また、子どもも大人も参加できるサッカー大会で、選手たちは天然芝のスタジアムでプロ気分を味わってプレーします。今では毎年目標にしてくれているチームもあり、関東圏だけではなく、青森や宮城からの参加もあるんですよ」と吉澤さんは語る。

第1回大会から、ボランティアスタッフとして運営を手伝っているというタカヤスポーツの鈴木均司さんは、設営や撤収に加え、当日は試合の結果管理を担当した。「参加者が随分と増えてきたな、と感じますね。天然芝で試合ができるって知的障がい者のチームではなかなかないですし、周りにアトラクションもあって、飽きさせない工夫をしているので、参加者の方たちも毎回喜んで帰られている印象です。広めのコートでプレーする選手たちなんか、ほんと上手いですし、勝ちにも貪欲ですよね」と教えてくれた。

大会は46×30mのチャンピオンリーグと30×18mのフィールドスターリーグの2つのカテゴリーで行われ、フィールドスターリーグは、小学生、中学生、高校生から一般の3つの世代別でリーグ戦が組まれた。より競技性の高いチャンピオンリーグは、江戸川区サッカー連盟の公認審判員がジャッジしたが、フィールドスターリーグは、サッカー未経験者も含んだボランティアスタッフが行った。普段はトラッソスでボランティアをしている齋藤紫乃さんは、この数年ボランティア審判としてこの大会に参加している。

上手くできなくても、しようとすることが大事

「私は、サッカーしたことないんですよ。全然知らない。そんなスタッフも含めて、事前に講習会を開いて、 ジャッジについての基準を共有しています。ホントのサッカーのルールみたいにしっかりとやってしまうと、試合が止まりすぎてしまうんです。選手たちが楽しくプレーできるように、ゲームの流れに気を配って、プレーを流したり、選手に声をかけたりしています」と齋藤さんは朗らかに話してくれた。

試合でもファウルスローは取らずに、『ジャンプしないで投げようね』などと声かけをしながらもう一度トライしてもらうように促す姿が多く見られた。コートサイズとしては、キックインも考えられたが、「空間認知を広げるためにも、浮き球のスローインを採用しています。上手くできなくても、しようとすることが大事」と吉澤さんはその狙いを語る。

実際に、一人ではピッチにいられなかったり、座り込んでしまったりする選手には、スタッフが横でプレーをサポートしていたり、試合前の円陣でも気分が乗らない時には輪に加わらなかったりと、にっこにこフェスタならではの姿もある。吉澤さんは、前向きにその姿を捉えている。「障がいのある方たちには、適切なサポートや配慮が必要になることがあると思っています。だからこそ、こちらが教えたりサポートするというのではなく、まず、本人の話や行動に真剣に向き合うようにしています。今日の大会では、普段と違い人も多く、雑然としていたので、声が出せなかったり、輪に入れなかったりする選手もいました。私たちは、その日のうちに楽しめるように、とアプローチをしていきますが、『今日がダメでも来年に向けて』と柔軟に対応しています。無理に結果を出そうとすると苦しくなりますし、それが大会の目的ではありませんから」

楽しみ、主体的な活動を

知的障がいとは、日常生活や学校生活において、金銭管理や読み書きなどの頭脳を使う活動に支障のある状態を指す。「知的障がい児・者にとってまず大事になるのは、自尊心だと思うんです」と語る吉澤さんは、サッカーを通じて、仲間として受け入れられる体験をし、コミュニケーションできるようになったり、相手を思いやるようになって欲しいと思っている。

ボランティアには様々な職種の人が関わっており、 自閉症スペクトラム支援士で特別支援学校教諭の吉田博子さんもその一人。「障がいのある方たちと関わる人にとって、大事なのは、まず理解することだと思うんです。例えば教師でも、自分の教育観を押し付けるのではなく、その人が将来どうなりたいか、何が今問題なのかをきちんと聞いて、そこに対応していく相手目線が大事なんじゃないかな、と。トラッソスさんを応援したいのもそういうところで、スポーツって成果に厳しい人が多いんですが、吉澤さんは、『いかに楽しむか、いかに主体的に活動しているか』を大事に考えているんですよね」と、吉澤さんの姿勢に共感し、ボランティアスタッフとして参加しているという。

昨年も参加したバドミントン部の女子中学生たちは、コート外に設けられたエアピッチで、選手たちと一緒に汗を流した。「一緒にサッカーができてすごい楽しかったです。普段はあまり会うことのない知的障がいの方たちと接して、一緒にサッカーをして。普通に楽しいです。学校では福祉の勉強があって、白杖をついたり、車椅子に乗ったり。そんな時、ちょっと想像できたりします」と笑顔で話してくれた。

吉澤さんは、ボランティアに支えられた大会だったと語る。「今まで多くて250名だったのが、今回は315名。オリパラみたいな大きなことじゃない地域の小さなイベントでも、趣旨を分かってくれて、楽しんでくれている人が増えているのは、すごく嬉しいことです。このイベントをきっかけに、地域での交流も始まったり、活性化したり。また、『同様の趣旨で、地域でイベントを開催したい』という方もおられたり、広がりが感じられるのが、ありがたいですね。来年は10回目の記念大会。新しい試みにもチャレンジできたら、と思っています」

NPO法人トラッソス

2003年に東京都江東区に誕生した特定非営利活動法人トラッソスは、Jリーグクラブの下部組織で指導者をしていた吉澤昌好氏が、中心となって立ち上げた知的障がい児・者のサッカースクール。『ボールを追いかける楽しさ』を感じることができるよう心がけたサッカー教室や協力することで得られる達成感や連帯感を大切にしたクラブチームを運営。全日本知的障がい児・者サッカー競技会『にっこにこフェスタ』は、トラッソスが中心となって2008年よりスタートしている。
【トラッソスウェブサイト】